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部分空間法に基づく構造物のモード同定

1. 概要

 近年,土木構造物の老朽化により,その維持管理が問題となっています。 維持管理においては,構造物の劣化や損傷を検知することが重要な課題であり,ヘルスモニタリングが注目を集めています。 部分空間法はシステム同定手法の一つであり,ヘルスモニタリングへの応用が期待されます。

 当社では,部分空間法に基づき構造物のモードを同定するプログラムを開発し,構造物の数値モデルなどを用いた検証を進めています。

2. 部分空間法

 部分空間法は,構造物への入力波形(入力地震動など)と構造物の出力波形(応答加速度)より, 構造物を表わす線形システムを同定する手法であり,多入力多出力の同定にも利用できます。

モード同定の処理フロー

 部分空間法には,入出力波形から線形システムを同定する部分空間法(Ordinary MOESP,N4SIDなど)と, 出力波形のみから線形システムを同定する確率的部分空間法(SSI-COV,CCAなど)があります。 例えば,交通荷重を受ける橋のモードを同定する場合,一般的には交通荷重を観測することは難しいため, 出力波形のみを使用する確率的部分空間法が用いられます。これは橋などの実稼働モード解析にも利用される手法です。

3. モード同定の処理フロー

開発したプログラムのモード同定の処理フローを図2に示します。

はじめに,部分空間法によるシステム同定を行い,固有振動数,モード減衰,モード形状を算出します。これを,同定対象とする状態方程式のシステム次数の仮定を変更しながら,繰り返し行うことで,モード(固有振動数,モード減衰,モード形状)の集合を得えます。

システム同定で得られたモードには,ノイズ等に起因する物理的意味のないモードが含まれます。それらを除去するために,stabilization diagramと呼ばれる図を利用します。ノイズ等に起因する物理的に意味のないモードは,システム次数の変更に対して変化しやすいと考えられており,stabilization diagramでは,システム次数によらず,安定して得られるモードを抽出します。

最後に,階層型クラスタリングによって,抽出された安定なモードをモード間の類似度に基づきグループ分けし,そのグループ(クラスタ)の中心をモード同定結果とします。

線形システムの入出力関係と構造物に作用する外乱・応答との対応

4. 事例:建屋の地震時応答に基づくモード同定

30階RC造建屋を想定した30質点線形せん断ばねモデルを同定対象とし,入力加速度を入力波形,15階,20階,25階,30階の応答加速度を出力波形として,モード同定を実施しました。

同定対象モデルの諸元
固有振動数の比較
モード減衰の比較
同定対象モデルの諸元
固有振動数の比較

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